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滅菌関連情報 PLASMA LINK | ASP Japan合同会社 〜2009年11月 Vol.17

Special Interview
「プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版)要約」と手術看護

日本手術看護学会 理事長 久保田 由美子 さん

この記事のテーマ
  • ガイドライン
[画像] 日本手術看護学会 理事長 久保田 由美子さん

1979年に誕生し、現在、全国11地区に4,500名以上の会員を組織する日本手術看護学会は、長年にわたり、手術室看護師の質の向上と役割拡大を図っています。さまざまな活動の中でも、毎年開催される年次大会は、最新の臨床治療、管理、教育など幅広いテーマでセミナーを実施し、手術室看護師にとって重要な学びの場となっています。

2009年11月の年次大会では、「プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版)要約」をテーマにした教育セミナーを開催。その目的と同ガイドライン導入の必要性について、日本手術看護学会の久保田由美子理事長にお話を伺いました。

統計学的には低い発症率 しかし、経営リスクは大きい

日本手術看護学会は、1979年に前身の関東甲信越地区手術室看護研究会として設立し、以来30年にわたって手術室看護師の質の向上と役割拡大を図ってきました。現在は、全国11地区4,500名以上の会員を組織するまでに成長し、手術看護に関する研修・教育・研究活動の他、手術看護認定看護師の育成、助成事業、会員実態調査などを行っています。

久保田 由美子さんの写真

2008年9月に「プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版)要約」が公開されて、1年が経ちました。当学会にもいくつか意見や質問が寄せられ、徐々に認知度は高まっています。とはいえ、実際に導入に向けて動いている施設は約50施設くらいと聞いています。プリオン病の発症率は人口100万人に対して1〜1.5人程度と非常に低く、医療現場では感染者に接する機会がほとんどありません。そのため、対応がつい後回しになっている施設もあるようです。また、対策実施に向け意識はするが具体的にどのように院内で進めていけばいいのか悩んでいる施設も多いようです。

プリオン病は現時点では生前の確定診断の検査法がないことから術前、術中にCJDと判断することは困難といわれております。手術の数カ月後にCJDと診断された患者に用いられた器材が従来の処理法で行われていた場合、その数カ月の間に手術を受けた患者に二次感染のリスクを告知したという報道も耳にしました。1)したがって、病院や医療従事者にとって非常にリスクが高い病気なのです。

ガイドラインに対処すれば病院側のリスクは激減

経営上のリスクについて、同ガイドラインの後半に注目すべき記述2)があります。その内容によると、登録されたリスク保有可能性者に対しては、手術を実施した医療機関が、本人に告知するとともに、10年間の経過観察を行うことが望ましいとされています。しかし、記載されている推奨処理を行っていれば、本人への告知も10年間の経過観察も必要はありません。医療機関は専門家組織にリスク保有可能性者を登録するのみでよいと書かれています(表1)。

つまり、長期的に見れば、同ガイドラインを導入するほうが、結果的に病院にとって手間とコストがかからないことになります。日々の忙しい業務の中で、まずはできるところから始め、PDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルの中で、徐々にガイドラインに沿った“あるべき正しい姿”に近づけていくことが大切です。

表1 リスク保有可能性者に対する必要な対応

表1 リスク保有可能性者に対する必要な対応

CJD対策を実施するにあたっては、院長や手術部長など上層部の理解がなかなか得られないという現場の声を耳にします。患者や医療従事者の安全管理はもちろんですが、経営上いかに大きなリスクをはらんでいるかについても、きちんと説明しておくべきだと思います。

手術看護認定看護師の専門性を活かし、主体的に対処

現場でスタッフの意識を向上させ、ガイドラインを周知徹底させていくためには、手術看護認定看護師の専門性やネットワークが大きな力となるはずです。また、中央材料室や手術部の現場では、委託業者がガイドライン対応について働きかけているところもあるようですから、こうした人たちの専門知識や力を借りるのもよいでしょう。委託業者に丸投げするのではなく、あくまで手術部や中央材料室の看護師長が正しい知識と強いリーダーシップをもって主体的に対応していくことが望まれます。

もちろんチェック体制も整えなければなりません。それぞれの器材に適した正しい方法で洗浄できているか、適切な滅菌処理を行っているか、機械のメンテナンスは定期的に行っているかなど、日々の業務をチェックできる仕組みをつくり、一つひとつ着実に問題点を改善していくことが大切です。

写真1 日本手術看護学会ホームページ

写真1 日本手術看護学会ホームページ

第23回年次大会においてプリオン病の教育セミナー開催

各現場における同ガイドライン導入の一助になればと、日本手術看護学会ではホームページにその全容を掲載しました(写真1)。今後は、1 1 地区の理事や指名理事、学識者など20数名が集まり、年に5回開催している理事会において、実際にプリオン対策を実施している施設などの情報を提供しながら、各地区での意識向上に努めていきます。1年後くらいにはプリオン対策を実施している施設が今の倍くらいには増えてほしいと望んでいます。

さらに、2009年11月13日、14日に行われる年次大会では、同ガイドラインをテーマにした教育セミナーを実施します。その内容をわかりやすく解説するとともに、実際の導入事例を詳しく紹介する予定です。実際、対策実施に向けて“壁”を感じていらっしゃる方々にとって、今回のセミナーは大きなヒントとなるに違いありません。

アジアとのかけ橋となり医療のさらなる発展を目指す

今回の年次大会では第2回アジアフォーラムも合同開催し、中国、韓国などアジア諸国からも7 0 名ほどの視察団が訪れます。プリオン病感染予防に関しては、日本はアジアで唯一ガイドラインを公開している国であり、多くの国がその動向に注目しています。

2009年3月、私が中国で講演した際も、看護実践の基準や教育システムなどについて皆さんから高い関心が寄せられました(写真2)。さまざまな知識やガイドラインを医療の現場に反映していくために、「基準から手順化へ」の実践的なノウハウをもっと自国の看護師たちに学ばせたいと、中国の看護協会会長も熱く語ってくださいました。

そこで、このたびの年次大会では、教育セミナーにおいて同時通訳も用意し、海外の皆様にも聴講していただけるように準備を進めてきました。この分野においても、日本がリーダーシップを発揮していけると確信しています。

写真2 2nd International Congress of the PeriOperative Nursing of Chinese Nursing Association

写真2
2nd International Congress of the PeriOperative Nursing of Chinese Nursing Association

ガイドラインを看護師たちの勉強のきっかけに

国内においては、地域や施設で格差をなくし、手術看護の底上げを図っていくことこそが、日本手術看護学会の最も重要な使命だと考えています。そのため、当学会では、4年に1度の実態調査も行っており、現状の把握に努めています。こうした調査やさまざまな団体やメーカーとの連携を通して、プリオン対策における設備状況や手順、スタッフへの教育法などの問題点および改善点が明確になることを期待しています。

医療の現場では、アウトソーシングや分業化が進んでいます、委託業者の中には昨日までは一般市民だった方も少なくありません。こうしたスタッフへの教育は各施設でも力を入れていると思います。器材メーカーに確認しながら、日々使用している器材の素材や構造的特徴を理解し、その器材は高温で処理できるのか、あるいは低温処理が必要なのかを判断できるようになることが望ましいです。そのためにも、このガイドラインを勉強するきっかけにしてほしいと思います。質の高い安心安全な医療を目指して、まずは第一歩から始めていきましょう。

参考文献
  1. 2006年2月20日読売新聞
  2. 「プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版)要約」
    付録 4・2 対応が必要なリスク保有可能性者に対する告知及び経過観察