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滅菌関連情報 PLASMA LINK | ASP Japan合同会社 〜2009年7月 Vol.16

Special Interview
「プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版)要約」とその実践

東京医療保健大学 学長 小林 寛伊 先生

この記事のテーマ
  • ガイドライン
東京医療保健大学 学長 小林 寛伊先生

クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は、異常プリオン蛋白が主に中枢神経系に蓄積して神経機能に障害を起こす致死性の疾患であり、厚生労働省において、二次感染対策に関する専門的な検討が行われてきた。2008年5月に同省より「手術器具を介するCJD(クロイツフェルト・ヤコブ病を含む)二次感染予防について」が通知され、同年9月に「プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版)要約」が策定、医療機関にプリオン病の感染防止対策の周知が行われた。その経緯や実践について、東京医療保健大学/大学院の小林寛伊学長に聞いた。

クロイツフェルト・ヤコブ病の感染報告と各国の対応

医療に関連したCJDの感染例は、観血的器械汚染によるもので脳深部電極:2例、脳神経外科手術器械:4例が報告されていますが、これらは何れも1980 年以前の症例であり、因果関係も明確にされていません。その他にも、角膜移植:2例、成長ホルモン:76例、ゴナドトロピン:4例の感染が報告されています。1)2)3)

CJDは、孤発性・遺伝性・感染性に大別され、英国では90年代半ばに、感染性である変異型CJD(ウシのBSEが変異してヒトに感染)が急速に広まり、大きな問題となりました。そこで英国では、器材を介した感染を防止するため、2002年に初めてガイドラインが策定されました。次いで周辺国でも迅速な対応がとられ、同年フランスでも全使用済み手術器材に対して、行政がオートクレーブ134℃、18分処理を要求しました。次いでスイスでも2003年から同様の対応が行われています。

我が国でも、2002年に厚生労働省より「クロイツフェルト・ヤコブ病診断マニュアル(改定版)」が策定され、2003年には「クロイツフェルト・ヤコブ病感染予防ガイドライン」が策定されました。プリオンは細菌やウイルスなどの微生物ではなく、タンパク質ですから、従来の滅菌方法では不活性化ができません。しかし、当時推奨された方法は、焼却やその他器材を破損させるような方法が主であったことから、医療現場では現実的な処理方法でなかったと言われています。

CJDは遅発性であることに加え、発症前にCJDと診断することが極めて困難です。医療現場でも処理方法の統一ができていないことから、二次感染防止を検討することが要求されました。これが「プリオン病感染予防ガイドライン(2008年版)要約」の検討の始まりです。

実際に我が国でも、手術の数カ月後にCJDと診断された患者に用いられた器材が、通常の処理をされ、他の患者に用いられた報告があります。これらについて、06年までに計85名の患者に対し追跡調査が行われており(表1)、 10年間の観察が望ましいとされています。より現実に近い方法で処理ができ、このような混乱を避ける目的から、ガイドライン作成へ厚生労働省が政策的に動かれたと理解しています。

表1 クロイツフェルト・ヤコブ病診断以前の脳外科手術事例について

表1
クロイツフェルト・ヤコブ病診断以前の脳外科手術事例について

4つの現実的な滅菌法をガイドラインで制定

これまでのところ、手術器具を介した感染が成立するとの科学的な根拠は報告されていません。また、孤発性CJDの年間発生は、100万人に1から1.5例とされているため、現在の日本の人口から推計すると、発症者数は年間128人前後ということになります。4)

1980年代以前には、脳外科手術を介したと思われる感染事例報告があり、以後約30年間手術を介しての交差感染報告例はありませんが、全面的に否定できない現状を鑑み、改めて、脳神経、脊椎、眼窩などのハイリスクと位置付けられる手術(表2)に用いた器材は適切な処理をしようということなりました。

小林 寛伊 先生 写真

表2 ハイリスク手技

表2 ハイリスク手技

これは基礎研究者の研究結果に配慮し、かつ、臨床の現場での運用を十分に汲み取ったものです。実際プリオンは、細菌のように培養ができませんし、動物(ハムスター・マウス・モルモット)を使用し、1年以上の実験観察期間を経て感染性不活性化がみられたLog10減少値により評価されますが、最近多くの研究結果が公開されてきたことから、国際的知見に基づいた、臨床の現場で現実的に実践できる処理方法4つが具体的に示されました。その4つの方法とは、表3のとおりです。

表3 ハイリスク手技に用いられた手術器械等に対して現時点で推奨される処理方法

表3 ハイリスク手技に用いられた手術器械等に対して現時点で推奨される処理方法

器具の素材に合わせた滅菌法の選択

CJDの処理方法については、従来から熱による処理が世界的に認められてきました。しかし、例えば1つ目に挙げたSDSによる煮沸は、プリオンに効果があることは確かですが、SDSは界面活性剤ですから、煮沸すると泡がたち、煮えこぼれが発生することで溶液が周囲を汚染する可能性があります。また手術室や中央材料室で熱源が必要になることにも留意が必要です。300床以上の医療機関1,125施設を対象に私の研究グループが2008年度に調査を行ったところ、この処理方法は採用しないと回答した施設が91.4%ありました。

ウォッシャー・ディスインフェクターを用いることができれば、プレバキューム式のオートクレーブで134℃、8〜10分と、日常的な滅菌方法で処理が可能なことから、第一選択肢となるでしょう。ウォッシャー・ディスインフェクターがない場合は、適切な洗剤による十分な洗浄を行い、プリバキューム式のオートクレーブ134℃、18分という処理時間が推奨されます。

また、近年の医療技術の進歩に伴い、熱処理できない手術器具が増えていることも重要です。外科系の軟性/硬性内視鏡や、マイクロサージェリー関連器材に代表される、非耐熱性器具の普及を考えると、低温でも効果の証明された方法で処理が行われないといけません。では低温での処理方法はとなると、これが4つ目に挙げた方法です。過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌の装置がない場合は、すでに所持している機関に外注し、滅菌してもらうしかないでしょう。

臨床現場にも患者にも考慮した滅菌環境の普及を

過酸化水素プラズマ滅菌器は、先ほどの調査でも所有していない施設が中小規模を中心にまだまだあります。国内で最初の一台が導入されたのが90年代初頭ですから、いたし方のないことだと思います。広く医療の現場で用意が整うのはこれからでしょう。

ガイドラインでは、現時点で最も信頼性が高い複数の方法が今回示されたわけですが、滅菌対象物の特性を考慮し、臨床の現場と患者にとって安全で、混乱を招かない処理方法の、速やかな普及が肝要と考えています。

小林 寛伊 先生 写真

参考文献
  1. Simmons BP, Gelfand MS. Hospital Epidemiology and Infection Control 2nd ed. 1999:593-604
  2. Will RG, Matthews WB. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1982; 45:235-238
  3. Nevin S, McMenemey WH, Behrman S, Jones DP. Brain 1960: 83:519-564
  4. CJD二次感染予防に関する対策検討会 2008年5月27日事務連絡 厚生労働省健康局 疾病対策課難医療・難病調査係