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滅菌関連情報 PLASMA LINK | ASP Japan合同会社 〜2008年5月 Vol.15

Special Report 大阪府、2008年4月1日からエチレンオキシドの排出規制開始
医療業も新たな規制対象に

大阪府環境農林水産部 環境管理室 事務所指導課 吉岡 牧二郎 氏

この記事のテーマ
  • EOG排出規制

大阪府は4月1日からエチレンオキシド規制を強化し、医療機関もその対象に加わる。滅菌ガスとして医療の現場で多用されるエチレンオキシドを、今後はどう利用したらよいのか。施行目前の3月8日、大阪国際交流センター(大阪市天王寺区)で開催された第111回中材業務及び滅菌技法研究会では、大阪府環境農林水産部環境管理室事業所指導課の吉岡牧二郎氏の講演に、500名の参加者が熱心に聴き入った。

吉岡 牧二郎 氏の写真

大阪府は、住民の生活環境や健康を守るために「大阪府生活環境の保全等に関する条例」を制定、自動車排ガスなどの大気汚染防止対策やアスベスト対策など 数々の規制を実施してきました。有害大気汚染物質の大気中への排出規制をさらに強化するために、2007年3月に同条例を改正し、2008年4月1日から施行します。

今回の改正では、特に環境リスクの高い物質や施設に対して環境への排出等を規制するという基本的な枠組みのもとに、規制対象有害物質として新たにエチレンオキシドを追加、医療業もその規制対象業種になったことが重要なポイントです。

滅菌に利用されるエチレンオキシド

エチレンオキシド(ethylene oxide、化学式:C2H4O、分子量44.05、別名;オキシラン、エポキシエタン、オキサシクロプロパン)は3員環の構造を持つ環状エーテルで、常温・常圧では無色のガス体で、エーテル臭があります。沸点は10.4℃、引火点が-20℃で引火性・爆発性があり、水やアルコール、有機溶剤に溶けやすいという性質があります。

強い殺菌性があり、微生物のたんぱく質や遺伝子などに含まれる核酸の水酸基やアミノ基などと反応しアルキル化することでその構造を変化させ、微生物は遺伝子変異を起こしたり死滅します。この性質を利用して殺虫剤や滅菌剤として広く使用され、医療機関では滅菌ガスとして利用されています。

エチレンオキシドの 人・環境への影響と対策

文字通り「毒をもって毒を制する」エチレンオキシドは殺菌性がある半面、人体に対する様々な影響が指摘されています。

その1つが発がん性です。IARC(国際がん研究機関)は、1994年にエチレンオキシドの発がん性評価を見直し、「グループ2A」(人に対する発がん性がおそらくある)から「グループ1」(人に対して発がん性がある)へと変更しました。

そのほかにも、濃厚な液体が皮膚につくと水疱ができる、目に入ると角膜炎を起こすことがある、蒸気を吸入すると低濃度の場合は吐き気、高濃度の場合は、目、皮膚、粘膜を刺激、多量に吸収すると、麻酔作用を起こし死亡することもあるなど、人体への様々な影響が指摘されています。こうしたこともあり、日本産業衛生学会はエチレンオキシドの許容濃度勧告値を1990年に50ppmから1ppmに変更しています。

またエチレンオキシドは、VOC(VolatileOrganic Compounds:揮発性有機化合物)の1つでもあり、光化学スモッグ、浮遊粒子状物質(SPM)の原因にもなり、オゾン層を破壊し、人はもちろん農作物や森林への悪影響や、CO2やメタンに次ぐ温室効果ガスとして地球温暖化の原因にもなっています。

日本では、IARCが発がん性評価を見直した2年後の1996年に、日本産業衛生学会が第1群(人間に対して発がん性がある物質)に変更、同年に国が大気汚染防止法に基づく有害大気汚染物質(234物質)のうち優先取組物質(22物質)としてエチレンオキシドを選定、事業者の自主管理により排出量を削減する取り組みがなされ、地方公共団体では大気環境のモニタリングが開始されています。

また、2001年5月には労働安全衛生法が改正され、エチレンオキシドは「特定化学物質等障害予防規則」(特化則)に組み込まれ、滅菌現場では作業環境測定や 局所排気装置の設置、作業主任者の配置、健康診断等が義務づけられるなど規制が強化されています。

大阪府生活環境の保全等に関する条例の主な変更点

  • エチレンオキシドを規制対象物質に
  • 医療業等を規制対象業種に
  • 滅菌施設、消毒施設を規制対象施設に

規制基準

有害物質

規制基準

エチレンオキシド

<設備構造基準 以下のいずれかに該当すること>

(1) 燃焼式処理装置又は薬液による吸収式処理装置を設け、適正に稼働させること

(2) (1)に掲げる処理装置と同等以上の性能を有する処理装置を設け、適正に稼働させること。

(3) (1)に掲げる処理装置と同等以上の排出抑制のできる構造とし、適正に管理すること。

罰則

  • 規制基準の遵守義務違反

    →6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金

  • 対象施設の届出義務違反、 虚偽の届出(設置届)

    →3カ月以下の懲役又は20万円以下の罰金

規制基準遵守状況の確認等

  • 施設の使用・管理の状況の記録保存義務

    把握・確認するため、事業者が自ら簡易に把握できる事項(排ガス処理装置の稼働状況等:下表参照)や、点検者氏名及び点検年月日等を記録し、3年間保存する義務が課せられました。

    ここに掲げた事項に替えて、届出施設の使用及び管理の状況を、より適切に把握できると認められる事項がある場合には、それを記録事項とすることも可能

処理設備の種類

規制基準

記録頻度

確認時の状況

前回確認後の稼働状況

燃焼式処理装置

燃焼室の温度

燃料使用量

原則として
週1回以上

薬液による
吸収式処理装置

薬液の循環状況

薬液の使用量

原則として
週1回以上

エチレンオキシド 排出の多い医療業

環境省によると2005年度の国内のエチレンオキシドの年間排出量は386トンで、その内訳は製造業が239トン、医療業(滅菌施設)が147トンを占めると推計されています。

大阪府条例による有害物質規制では、エチレンオキシドの排出規制は、これまでは製造業が対象で、医療業は対象外でした。しかし、排出実態の観点からすると常温で無色透明の気体であるエチレンオキシドは刺激性の臭気がないため、人口密集地内の医療機関から近隣の住民が意識することなく継続してばく露するおそれがあります。また、2001年5月には労働安全衛生法が改正され、病院でも看護師など労働者へのばく露防止対策が進められています。そこで、今回新たな対象業種として医療業、洗濯業、消毒業の3業種を追加するとともに、製造業や医療業等で利用されている滅菌施設、消毒施設も規制対象施設として追加することにしたものです。

府が推進する「大阪21世紀の環境総合計画」では、2010年度を目標年度として「環境リスクの高い化学物質の排出量を削減すること」を目標として掲げています。「大阪府生活環境の保全等に関する条例」を改正して、新たな化学物質管理制度を構築することは、この目標達成のためにも欠かせません。

病床数200床以上の 病院が規制対象に

今回の改正で規制対象となるのは、行政効率と事業者の対応可能性の観点から、滅菌施設、消毒施設ともに病床数( 医療法第7条第2項第1号に規定する精神病床又は第4号に規定する療養病床を除く)が200床以上で、医療法第21条第1項第3号に掲げる手術室を有する病院、それに滅菌業を営む者の事業所です。

大阪府内に所在する病院は423ありますが、病床数200床以上ですそ切りを設定することで99病院が該当、病院数累積分布では23.4%、病床数累積分布では62.5%をカバーしています。

規制対象施設を有する医療機関は、行政への届出が義務づけられると同時に、設備構造基準の遵守状況を把握・確認するため、排ガス処理装置の稼働状況を原則として週1回以上記録し、3年間保存することが義務づけられています。

処理装置は自己負担  違反には罰金や罰則も

改正により病床数200床以上の病院は、エチレンオキシドの大気中への排出を抑制するのに適した汚染防止措置として、

(1) 燃焼式処理装置又は薬液による吸収式処理装置を設け、適正に稼働させること。

(2) (1)に掲げる処理装置と同等以上の性能を有する処理装置を設け、適正に稼働させること。

(3) (1)に掲げる処理装置と同等以上の排出抑制のできる構造とし、適正に管理すること。

が求められるようになりました。エチレンオキシドガス処理装置には、触媒方式、燃焼方式、加水反応方式、活性炭吸着方式などがありそれぞれ特性があります。配管工事が不要な触媒方式の場合でも導入・設置には数百万円の費用がかかります。規制では「汚染者負担の原則(Polluter Pays Principle)」に基づき、事業者負担のもとに実施されるべきものと規定しています。

規制基準の遵守義務に違反した場合は、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金、対象施設の届出義務違反や虚偽の届出をすると3カ月以下の懲役又は20万円以下の罰金という罰則も新たに設けられました。

人命を預かる医療機関には、自らの施設から排出される有害化学物質による地域住民のばく露を低減させる社会的な責任があります。

今回の規制は、一定規模以上の病院を対象にしていますが、すそ切り以下の病院や診療所も、可能な限りリスク低減措置を自発的に講じることが求められているのは言うまでもありません。