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  5. 2008年5月 Vol.14

内視鏡関連情報 NEWS SCOPE | ASP Japan合同会社 〜2008年5月 Vol.14

特別インタビュー 感染管理専門家からみた内視鏡室の感染管理

浜松医療センター
感染症科長・衛生管理室長 矢野 邦夫 先生
衛生管理室長補佐・看護師長 松井 泰子 さん

この記事のテーマ
  • ICT活動
  • ガイドライン

開放型病院として静岡県西部地域の医療水準向上をはかっている浜松医療センターは、先進的な院内感染対策を実践している施設としても全国的に知られています。同院で院内感染対策を担っているのが感染症科長・衛生管理室長の矢野邦夫先生と衛生管理室長補佐・看護師長の松井泰子さんです。お二人の感染管理専門家からみた内視鏡室の感染管理や内視鏡室従事者として留意すべき点などをうかがいました。

(左)矢野 邦夫 先生(右)松井 泰子 さん

CDCガイドラインと消化器内視鏡技師会のガイドラインについて

CDCガイドラインは一貫した考え方に基づいている

CDCガイドラインについて矢野先生のお考えをお聞かせください。

矢野1996年にCDC(米国疾病管理予防センター)が「病院における隔離予防策のためのガイドライン」において「標準予防策(スタンダード・プリコーション)を基本にした新しい感染対策」を公開して以降、日本の感染対策はその影響を強く受けてきました。私自身も標準予防策のガイドラインに興味をもったことがきっかけとなって、感染予防にのめり込んでいった経緯があります。その後も数多くのCDCガイドラインが公開されていますが、全てが科学的、合理的で一貫した考え方に基づいて作成されています。他に各種の学会から感染管理に関するガイドラインが出ていますが、照合すると矛盾することがよくみられます。その点、CDCの各種のガイドラインはお互いに矛盾することがなく、いずれの勧告にも根拠がありますので、病院内のスタッフにも説得しやすいといえます。

消化器内視鏡技師会のガイドラインもCDCと矛盾しない

各種のCDCガイドラインをどのように現場で活かしているのでしょうか?

松井矢野先生がCDCガイドラインをご覧になって、そのうち現場で使えるものがあるかどうかチェックします。それを衛生管理室から院内に提案をして検討していくようにしています。その一例が手術室のスリッパの廃止です。スリッパの履き替えを廃止し一足制にしました。小さなことでも病院全体の習慣を変えるのは大変でしたが、やがてスリッパがなくても違和感がなくなっていきました。根拠のある提案に対して、院内の医療従事者の意識と行動が変わっていくのをみるのは楽しいですね。

消化器内視鏡技師会の「洗浄・消毒に関するガイドライン」もCDCガイドラインの標準予防策などをもとに作成された経緯があります。

矢野私も消化器内視鏡技師会のガイドラインを読みましたが大変良い内容だと思います。CDCのガイドラインと矛盾せず、エビデンスに基づいており受け入れやすくすばらしいガイドラインです。CDCでは内視鏡に関連するガイドラインとしては「医療施設における消毒および滅菌のガイドライン」の草案を発表して、現在、検討を重ねていますが、最終的に公開されても消化器内視鏡技師会のガイドラインに記されている内容を変更しなければならなくなるとは思いません。

ICT活動と軟性内視鏡の感染管理

エビデンスのある感染対策は病院経営に寄与する

院内の感染対策を推進する上で留意していることを教えてください。なお、衛生管理室はICT(Infection Control Team)活動を実践している部署と考えてよろしいでしょうか?

松井衛生管理室=ICTと考えていただいて結構です。衛生管理室として院内で統一した感染対策を推進するために、まず留意していることは、感染に関することは何でも気軽に相談してもらう環境づくりです。感染対策を実施するのは各診療科であり、私たちはそれを支援する立場で各診療科や各職種の業務を理解して対応するように努めています。また、感染対策を実施した結果を現場にフィードバックしています。結果が良いと現場のモチベーションアップに繋がり、それが私たちにとっても励みになっています。

その他、エビデンスに基づく感染対策を院内に提案し、エビデンスがしっかりした感染対策にお金をかける一方で、エビデンスが不明で無駄な対策を省いてコストを削減していくことにも留意しています。

矢野抗菌薬の適正使用を啓発していった結果、使用量が減ったなど、エビデンスのある感染対策を進めると病院経営面に寄与することを実証しています。とくにDPC(Diagnosis Procedure Combination=診断群分類別包括評価)を導入すると、院内感染の発生は多額の経費持ち出しになるので、感染対策は一層重要になります。当院もDPCが導入され、感染対策を推進する上で追い風になっています。

矢野邦夫先生の写真

浜松医療センター
感染症科長・衛生管理室長
矢野邦夫先生

衛生管理室として内視鏡室の感染対策に積極的に関わっている

内視鏡室の感染対策についてお聞かせください。

松井手術室と同様に内視鏡室の器材管理は、看護師が片手間でできる仕事ではないと思っています。その点、当院の内視鏡室には高い専門知識をもつ消化器内視鏡技師が複数おり、彼女たちと相談しながら適切な感染対策を進めています。感染対策を推進する上で内視鏡技師の存在は大きく、感染管理を専門とする我々にとって非常に有り難い存在です。

衛生管理室は内視鏡室の感染対策にどのように関わっていますか?

松井マニュアルの作成に衛生管理室が関わることを院内のルールとしており、内視鏡技師と一緒に検討しています。また、器材や消毒薬の選定に関しても積極的に関わりエビデンスに基づいたアドバイスを行なっています。

矢野消毒剤の選定には衛生管理室も積極的に関わります。高水準消毒剤としてエビデンスがしっかりあって、医療従事者への曝露が比較的少ないことを衛生管理室の観点からも検討した結果、フタラール製剤を採用しています。採用後も定期的にメーカーに依頼してフタラール製剤の濃度を測定したり、内視鏡の洗浄・消毒・すすぎを行なった後のスコープの残留濃度を測定したりと消毒薬の適正使用を心掛けています。感染対策上、消毒剤の濃度や消毒時間は消毒効果に影響を与える因子の中で最も留意すべき点です。また、高水準消毒剤を適正に使用していても消毒前の洗浄が不十分では十分な消毒効果は期待できません。適正な洗浄によって、スコープを汚染している菌数が1万分の1〜10万分の1まで減少するという報告もありますので、そういうエビデンスを基に感染管理担当の立場から洗浄の重要性を伝えていくことも我々の役目です。

松井また、スタッフに安全な作業環境を提供することも我々の仕事です。高水準消毒剤を使用する際の換気や防護具着用は基本的な注意事項です。陰圧ダクトの設置や、洗浄・消毒する際に防護具の準備等を行ない内視鏡室のスタッフをサポートしています。

内視鏡室以外の診療科に関してはいかがですか?

松井他の診療科に関しても同様に衛生管理室が積極的に関わっています。先でも述べたようにマニュアルの作成には衛生管理室が関わることを院内のルールとしています。たとえば、軟性内視鏡の洗浄・消毒の手順は既にマニュアルによって院内で統一化していますが、マニュアル作成の際は内視鏡技師の力を借りて一緒になって作成をしました。消化器内視鏡技師会より出されている「内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン」第2版を参考にしました。マニュアル通り実施しているかどうかの確認も衛生管理室が行なっています。具体的には、「内視鏡漏水確認」「消毒薬の濃度」「内視鏡洗浄器の使用回数」「使用後の内視鏡洗浄の担当者」「どの洗浄器を使用したか」などのチェック表を作成し、マニュアルが遵守されているかを確認しています。

内視鏡室従事者に望む感染対策

感染対策で最も強調するのは手指消毒

その他に内視鏡室での機器の洗浄・消毒以外の感染対策で留意すべき点をあげてください。

矢野私は環境表面が気になります。壁や床などは毎日清拭をする必要はありませんが、光源装置やパソコンのキーボード、ドアノブなど手が高頻度に接触する表面の拭き取りが重要です。病原体の伝播は、その表面に接触した手を介することがほとんどだからです。CDCのガイドラインによれば、環境表面にいる病原体は自分で飛んで感染することはなく、人間の手が接触して菌を動かす、つまり、感染経路は「手」であるということです。

内視鏡室従事者の手洗いが大切になりますね。

矢野それが感染対策で一番強調したい点です。当院では、アルコールによる手指消毒を基本としています。流水による手洗いの場合、しっかり拭き取らないと、手の濡れた部分に環境表面の菌が付着して移動してしまいます。その点、アルコールはすぐ乾きます。乾燥した手から菌はほとんど移動しません。

手が肉眼的に汚れている場合や炭疽菌やクロストリジウムといった芽胞を形成する病原体の感染者を診療する場合などは石けんと流水で手洗いする方がよいのですが、内視鏡室では基本的には接触する患者さん毎に手袋を変えるとともにアルコール消毒をおすすめします。

CDCも手指衛生の基本はアルコール製剤と定義していますね。

矢野そうです。CDCのガイドラインを読むと目から鱗の事実に驚くことがよくあります。たとえば、B型肝炎ウイルスに感染した医療従事者を調査したところ、そのほとんどに針刺しの既往がなく、B型肝炎ウイルス感染者との接触もなかったという報告が紹介されていました。B型肝炎ウイルスは環境表面に付着した乾燥血液内で少なくとも1週間は生き続けることができます。医療従事者の手や指に手荒れや擦り傷があると、環境表面に付着しているウイルスが、知らず知らずのうちに、傷口から侵入してしまうのです。したがって、内視鏡室に限らず、病院自体がハイリスクな環境であり、そこで働く医療従事者はHBs抗体を獲得していなければなりません。

なお、こうした感染対策の基本については、「寝ころんで読めるCDCガイドライン」(メディカ出版刊)にまとめています。

矢野邦夫著・寝ころんで読めるCDCガイドライン表紙

著者:矢野邦夫
出版社:メディカ出版

他施設からの感染対策見学ツアーを受け入れ

感染対策を継続していくためのアドバイスをいただけますか?

松井感染対策は楽しいと思って取り組んでいくことと、感染対策に関する教育を頻繁におこなっていくことが大切だと思います。私たち衛生管理室やICTが内視鏡室に入り込んで行けば、新しい感染対策情報も導入できますので、内視鏡室内での教育や研修に活用できるのではないでしょうか。また、マニュアルを作成するだけでは不十分で、内視鏡の洗浄・消毒に関するトレーニングをしていくことが求められます。

外部から病院内見学を受け入れていると聞きましたが。

松井5年ほど前に見学希望者が増えてきたことを機に、衛生管理室が調整役になって、院内見学ツアープログラムを組んでいます。今では年間200名以上の医療従事 者を受け入れています。 見学を申し込まれた施設などから、見学の目的や見学希望部署などをうかがって、日程の調整などをおこなっています。内視鏡室も見学を受け入れており、見学希望者は多いですね。

矢野見学者への説明は内視鏡技師など各部署の感染対策担当者がおこなっていますが、説明をすることで自信も深まり、自分たちの感染対策を振り返る良い機会になっているようです。また、見学される方々と情報交換もおこなえますので、お互いに良い機会になっていると思います。他施設と積極的に交流を図ることをお薦めします。

松井泰子さんの写真

浜松医療センター
衛生管理室長補佐・看護師長
松井泰子さん

浜松医療センター外観